社長が「在庫が合わない」と言ったら、システム会社は何を聞き返すのか?

「在庫が合わない」という悩みは、そのままシステム会社に伝えても通じません。
システム会社が知りたいのは「リアルタイム更新の必要性」「管理単位の粒度」「入力者の権限設定」といった専門的な話です。
本記事では、システム会社の専門用語をDX翻訳者が社長の言葉に翻訳し、2週間で実行できる小さな一歩を具体的に解説します。

「在庫が合わない」と社長が言った瞬間、システム会社の顔が曇った理由

「うちの在庫、いつも帳簿と実際が合わないんですよ。どうにかなりませんか?」

製造業の社長なら、一度は口にしたことがあるセリフです。月末の棚卸しで「あれ? また10個足りない…」「逆に20個多い…」なんてこと、日常茶飯事ですよね。

で、意を決してシステム会社に相談すると、向こうの顔が一瞬曇る。そして、こう聞き返されます。

「それって、リアルタイム更新ですか? それともバッチ処理ですか?」

…は? リアルタイム? バッチ?

ここで社長は固まります。だって、「在庫が合わない」って言っただけなのに、突然IT用語が飛んでくるんですから。

実はこれ、あなたが悪いわけでも、システム会社が意地悪なわけでもありません。「在庫が合わない」という言葉だけでは、システム会社にとって情報が足りなさすぎるんです。

そこで登場するのが、DX翻訳者。システム会社の専門用語を、社長が判断できる言葉に翻訳する役割です。

在庫管理って何?(言葉の意味)

在庫管理とは、会社が持っている材料・途中の製品・完成品などについて、「いつ・どこに・何が・いくつあるか」を正確に把握して、ちょうどいい量を保つ作業のことです。製造業では、材料切れで生産が止まったり、作りすぎてお金が足りなくなったりするのを防ぐために欠かせない仕事です。

システム会社の専門用語に困惑する社長

なぜ「在庫が合わない」はシステム会社に伝わらないのか?

システム会社が知りたいのは、「困りごとの正体」です。

「在庫が合わない」という言葉の裏には、実はいろんなパターンが隠れています。

  • 月末に数えたら、帳簿より10個少なかった(棚卸差異
  • 出荷したのに、ノートに書き忘れて在庫が減ってない(入力漏れ
  • 同じ品番でも、古いのと新しいのが混ざってる(ロット管理の不備
  • 倉庫の人が「だいたいこのへん」で置いてて、どこに何があるか分からない(ロケーション管理の欠如

これ、全部「在庫が合わない」って言えちゃうんです。

でも、システム会社からすると、それぞれ必要な対策が全然違う。だから、「在庫が合わない」だけじゃ、何をどう作ればいいか分からないんです。

ちなみに、製造業における棚卸差異(帳簿と実在庫のズレ)の許容範囲は一般的に±5%とされています。それを超えると企業の利益計算に影響が出るため、早急な原因特定と改善が必要です。
(出典:棚卸差異【棚卸はなぜ合わない?誤差の原因と対策方法とは】、スマートマットクラウド、アクセス日:2026年1月25日)

システム会社が聞き返してきた3つの質問(と、その翻訳)

システム会社が「在庫が合わない」と聞いて、真っ先に確認したいのがこの3つです。

質問①:「リアルタイム更新ですか? それともバッチ処理ですか?」

💡 DX翻訳者が翻訳すると…

「その場ですぐ記録したいのか? それとも1日に1回まとめて記録するのか?」という意味です。

リアルタイム?日次?月次?

【現場の困りごと(社長の言葉)】

「月末に慌てて数えてるんだけど、いつも帳簿と合わないんだよね」

【問題の正体(翻訳者が整理)】

これは、「入出庫の記録タイミングがバラバラ」という問題です。

出荷したときに「あとで書こう」と思って忘れる。入荷も「まとめて週末に書く」から、リアルタイムの在庫数が分からない。

【システム会社向けの要件(専門用語)】

  • 日次バッチ処理で対応
  • リアルタイム更新は不要(現場の運用上、困難)
  • 夕方17時に事務所で1日分をまとめて入力

【社長が決めること(翻訳後)】

「うちは1日1回、夕方にまとめて記録する」

【今すぐできる小さな一歩】

まずはエクセルで出し入れを記録してみる。いきなり高い仕組みを入れる前に、「記録する習慣」を作る。これだけで、2週間後には「うちの現場、本当にその場ですぐ記録できるのか?」が見えてきます。

質問②:「管理単位は品番ベースですか? ロットベースですか? ロケーション管理も必要ですか?」

💡 DX翻訳者が翻訳すると…

「品番だけで管理するのか? 入荷した日ごとに分けるのか? 置き場所も記録するのか?」という意味です。

ット管理・ロケーション管理の整理

【現場の困りごと(社長の言葉)】

「同じ品番でも、古いのと新しいのが混ざってて、どっちを出荷すればいいか分からない」

【問題の正体(翻訳者が整理)】

これは、「管理単位が曖昧」という問題です。

製造業では、同じ品番でも製造ロットによって品質が微妙に違うことがあります。古いロットから先に出荷しないと、品質劣化や期限切れのリスクが高まります。

【システム会社向けの要件(専門用語)】

  • ロットベース管理が必要
  • FIFO(先入先出)ロジックを適用
  • ロケーション管理(棚番号)も紐付けたい

【社長が決めること(翻訳後)】

「うちは入荷日ごとに分けて、古い順に出す。できれば置き場所も記録したい」

【今すぐできる小さな一歩】

まずは「いつ入ってきたか」をエクセルに記録する。製造ロット番号がなくても、「入荷日」が分かれば、古い順に出荷できます。

質問③:「入力権限は現場作業者ですか? それとも事務担当者ですか?」

💡 DX翻訳者が翻訳すると…

「誰が記録するのか? 倉庫の人か? 事務所の人か?」という意味です。

【現場の困りごと(社長の言葉)】

「倉庫の人が忙しくて、後でまとめて書いてるから、今の在庫が分からない」

【問題の正体(翻訳者が整理)】

これは、「入力者と入力タイミングが決まっていない」という問題です。

現場が忙しいときに「今すぐ書け」と言っても無理。でも、後回しにすると忘れる。

【システム会社向けの要件(専門用語)】

  • 入力権限:事務担当者(○○さん)
  • 入力タイミング:毎日17時(日次バッチ)
  • 入力フロー:倉庫からの入出庫伝票をもとに入力

【社長が決めること(翻訳後)】

「うちは事務所の○○さんが、毎日夕方5時に記録する」

【今すぐできる小さな一歩】

「誰が・いつ・どこで記録するか」を決める。これをルール化するだけで、記録漏れが激減します。

エクセルで記録を始める

3つの質問に答えると、見えてくる「本当の要件」

3つの質問に答えると、システム会社はやっと「要件定義」に進めます。

📖 要件定義とは何か?(言葉の意味)

要件定義とは、システムを作る前に「何を・どう・誰が使うのか」を決める作業のことです。これが曖昧だと、作った後に「思ってたのと違う」が起きます。

在庫管理システムの要件定義で決めるべき項目は、主に以下の7つです。

  1. 入力者は誰?(現場の作業者? 事務担当者?)
  2. いつ入力?(リアルタイム? 日次?)
  3. 管理単位は?(品番のみ? ロット別? ロケーション別?)
  4. 例外処理の扱いは?(返品・不良品・棚卸調整)
  5. マスタ管理は誰が?(品番・取引先・倉庫情報)
  6. 既存データ移行は?(過去の在庫データをどうする?)
  7. 運用開始日は?(いつから本稼働?)

これらが曖昧なまま「在庫管理システムを入れたい」と言っても、システム会社は設計できません。逆に言えば、この7項目が明確になれば、システム会社は動けます。

実際、在庫管理システム導入の失敗原因として最も多いのが「要件定義の不十分さ」です。業務フローを可視化せず、現場の実務とシステムの機能がズレたまま導入してしまうと、「思ってたのと違う」が稼働後に発覚します。
(出典:在庫管理システムの導入が失敗する理由、在庫管理の教科書、アクセス日:2026年1月25日)

3つの質問で前進するステップ

今すぐできる小さな一歩:2週間で始める「エクセルでの出し入れ記録」

ここまで読んで、「じゃあ、うちもシステム入れなきゃ!」と思った社長、ちょっと待ってください。

いきなりシステムを入れるのは、リスクが大きすぎます。

なぜなら、システムを入れる前に「現場の運用ルール」が固まっていないと、システムが使われずに終わるからです。

まずはエクセルで「記録する習慣」を作る

  • 出荷したら、エクセルに「日付・品番・数量・出荷先」を書く
  • 入荷したら、同じく「日付・品番・数量・仕入先」を書く
  • 毎日夕方5時に、事務所の○○さんが書く

たったこれだけ。 でも、これを2週間続けると、以下のことが見えてきます。

  • 本当に必要な機能:ロット管理は必要? ロケーション管理は?
  • 現場の運用ルール:誰がいつ書ける? リアルタイムは無理?
  • 例外処理の頻度:返品や不良品、どれくらい起きてる?

これが分かれば、システム会社に「うちはこういう運用でいきたい」と具体的に伝えられます。

チェックリスト:在庫管理システム導入前に決めるべき10項目

システム会社に相談する前に、以下の項目を社内で決めておくと、話がスムーズに進みます。

  • 入力者は誰?(現場の作業者、または事務担当者)
  • いつ入力?(リアルタイム/日次/週次)
  • 管理単位は?(品番のみ/ロット別/ロケーション別)
  • 先入先出は必要?(製造ロットや賞味期限管理)
  • 例外処理の扱いは?(返品・不良品・棚卸調整)
  • マスタ管理は誰が?(品番・取引先・倉庫情報の更新担当)
  • 既存データ移行は?(過去データをどこまで移行する?)
  • 運用開始日は?(いつから本稼働? テスト期間は?)
  • 現場の教育は?(誰が、いつ、どうやって教える?)
  • トラブル対応は?(システムが止まったら誰に連絡?)

国の補助金を使って在庫管理DXを進める

在庫管理システムの導入には、国の補助金が活用できます。

デジタル化・AI導入補助金2026

2026年度より、従来の「IT導入補助金」から名称が変更されました。中小企業・小規模事業者向けに、ITツール(ソフトウェア、サービス等)の導入を支援する補助金です。在庫管理システムやクラウドERPも対象になります。

  • 補助上限額:最大450万円
  • 補助率:1/2以内~2/3以内(枠によって異なる)
  • 対象:会計ソフト、在庫管理システム、生産管理システムなど

(出典:デジタル化・AI導入補助金で IT導入・DXによる生産性向上を支援、中小企業庁、アクセス日:2026年1月25日)

(出典:デジタル化・AI導入補助金2026ポータルサイト、中小企業基盤整備機構、アクセス日:2026年1月25日)

ものづくり補助金

製造業のDX推進に特化した補助金で、在庫管理の効率化や生産性向上に活用できます。

経済産業省は2025年も「ものづくり補助金を中心に製造業DXを進める」としており、第19次公募は2025年4月25日締切、第20次公募は同年7月に予定されています。
(出典:在庫管理DXに役立つ補助金、スマートマットクラウド、アクセス日:2026年1月25日)

注意点:補助金は「申請すれば必ずもらえる」わけではありません。要件定義がしっかりしていないと、審査で落ちる可能性があります。

FAQ:よくある質問

Q1:在庫差異の許容範囲はどれくらい?

A: 一般的には±5%以内が許容範囲とされています。それを超えると、企業の利益計算に影響が出るため、早急な原因特定と改善が必要です。
(出典:棚卸差異【棚卸はなぜ合わない?誤差の原因と対策方法とは】、スマートマットクラウド、アクセス日:2026年1月25日)

Q2:システム導入の前にやるべきことは?

A: まずはエクセルで入出庫記録を始めることです。2週間続けると、「うちの現場に必要な機能」や「リアルタイム入力が可能か」が見えてきます。いきなりシステムを入れるより、リスクが低く、要件定義の精度も上がります。

Q3:補助金は使える?

A: はい、デジタル化・AI導入補助金2026(旧:IT導入補助金)やものづくり補助金が活用できます。在庫管理システムやクラウドERPも対象です。ただし、要件定義がしっかりしていないと審査で落ちる可能性があるため、まずは業務整理から始めましょう。

Q4:エクセルからシステムへいつ移行すべき?

A: 「記録する習慣」が定着してからです。目安は、エクセルでの入出庫記録が2ヶ月以上継続し、入力漏れが月に1〜2件以下になったタイミングです。このタイミングでシステム会社に相談すると、要件定義がスムーズに進みます。

Q5:現場が反発したらどうする?

A: 現場が反発する最大の理由は「なぜやるのか」が伝わっていないからです。「社長がやれって言ったから」ではなく、「在庫が合わないと、こんな損失が出てる」を数字で見せましょう。たとえば、「月末の棚卸で毎回5万円分の在庫差異が出てる。年間60万円の損失」と具体的に伝えると、現場も納得しやすくなります。

まとめ:「在庫が合わない」を翻訳できれば、システム会社は動ける

「在庫が合わない」という困りごとは、そのままではシステム会社に伝わりません。

でも、DX翻訳者が専門用語を社長の言葉に翻訳すれば、システム会社は要件定義に進めます。

  • 質問①:「リアルタイム更新? バッチ処理?」→「その場ですぐ? 1日1回?」
  • 質問②:「品番ベース? ロットベース?」→「品番だけ? 入荷日ごと?」
  • 質問③:「入力権限は誰?」→「誰が記録する? 倉庫? 事務所?」

そして、いきなりシステムを入れるのではなく、まずはエクセルで「記録する習慣」を作る

2週間続ければ、「うちの現場に本当に必要な機能」が見えてきます。

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参考文献・引用元

  1. 【2025年版】在庫管理に関する実態調査を公開 約8割が人手不足への課題感、PR TIMES(アクセス日:2026年1月25日)
  2. 棚卸差異【棚卸はなぜ合わない?誤差の原因と対策方法とは】、スマートマットクラウド(アクセス日:2026年1月25日)
  3. 在庫管理システムの導入が失敗する理由、在庫管理の教科書(アクセス日:2026年1月25日)
  4. デジタル化・AI導入補助金で IT導入・DXによる生産性向上を支援、中小企業庁(アクセス日:2026年1月25日)
  5. デジタル化・AI導入補助金2026ポータルサイト、中小企業基盤整備機構(アクセス日:2026年1月25日)
  6. 在庫管理DXに役立つ補助金、スマートマットクラウド(アクセス日:2026年1月25日)

著者:石井かつなり(Office DROPS)|

製造業向けDXの翻訳者。現場の「今どこ?」「段取りが人次第」といった困りごとを、システム会社が誤解なく作れる“要件(項目・責任・例外処理)”に翻訳します。
現場経験40年/中小企業支援15年・300社以上。記事では「現場の声→翻訳→要件→最小の一手」の順で、実装に繋がる形に整理します。

公開日:2026年1月25日
更新日:2026年1月25日